▪️ソーシキ博士の教えてちょーだい!▪️
小学生の頃、夏祭りでカタヌキをする子供達は熱かった。
板状の菓子をおじさんから買う。でもこの菓子を食べる人間は一人もいない。
その菓子に描かれた絵を針でけずりとって文字通り型から抜くのだ。
カタを抜くとその絵柄の難易度に応じた賞金がもらえるシステム。
子供達の目に炎が灯っていた。
私は手が年中腫れてるのかと思うほど不器用だから一回試しにやって失敗するくらいでやめた。
他の男子もやってはみるがなかなかうまくいかない。一見簡単そうだが少しの力の加減で菓子はパキパキと折れてしまう。
でもトンちゃんは違った。
隣りのクラスで喋ったことはないがサッカーばかりしていて古本みたいに日焼けしていたトンちゃん。
トンちゃんはカタヌキがうまかった。周囲が失敗して絶叫する中、慎重に針を動かして次々とカタを抜いていく。
そしてその金でまた新しいカタヌキを買って手持ちの金を増やしていた。金がなくなった子供たちはトンちゃんを囲んで行方を見守った。
勇者を見ていた。
だがカタヌキの最大の敵はテキ屋の親父だ。
「少し欠けてるからダメ」「針の先をなめたからだめ」「時間かけすぎだからダメ」など難癖をつけてトンちゃんに金を払わなくなっていく。
だがトンちゃんも諦めない。トンちゃんは反骨心がある男だった。古本みたいに肌が焼けていた。
ふう、と一度深く呼吸をした後すごいスピードと的確な針さばきで文句のつけようのない完璧なカタヌキをしてみせた。
出来上がった瞬間ギャラリーから歓声が沸いた。
これなら絶対いける。
トンちゃんがテキ屋の親父に抜いたカタを見せる。
その後ろに見守っていた子供たちが市民団体のように詰めかけている。
テキ屋の親父はカタを受け取った。裏表をじっとりと見る。タバコをゆっくりとふかす。
永遠みたいな時間が流れる。ここがこの年の祭りのクライマックスだと全員がわかっている。
親父はぐるりと首を回してから、トンちゃんの方を向いてこう言った。
「にいちゃん、そんなに何枚も抜かれたら商売になんねえんだよ。帰れ」
むちゃくちゃ怖かった。声にドスが利いていた。ヤクザにしか見えなかった。
トンちゃんは帰った。みんな帰った。トンちゃんの顔をちらっと見るとくしゃみを我慢してるみたいな顔だった。
泣きたかったんだろう。
その後すこしだけトンちゃんと仲良くなって家に遊びにいった。
むちゃくちゃ怖い姉が三人いて何しに来たんだてめえら帰れと怒鳴られてすぐ帰った。
絶対にこの事態を先に予想して「うちはダメだよ」とか言ってくれよ、と思った。
その後トンちゃんはサッカーにさらにのめり込んで中学に上がる頃には漢方みたいな肌の色になっていた。
⚪︎伊藤先生的雑感⚪︎
出身はどこかと聞かれたら、福岡ですと答える。小6から高3までの多感な時期を、福岡県久留米市で過ごしたからだ。ただこれは便宜的な返事であって、実際には福岡県に引っ越す前、大分県に住んでいた。幼稚園から小5までの8年間、大分県日田市で暮らしていた。高校卒業まで、福岡と大分でそれぞれ大体同じくらいの期間を過ごしたことになる。
日田市には、毎年5月に行われる川開き観光祭という祭りがある。どんたく、花火、ミニライブ、体験型イベントなど、いわゆる町のお祭りという感じで、結構賑わう。当時小学生だった僕にとっても、観光祭はかなり重要なイベントだった。各小学校の高学年が鼓笛隊をなして行進する、音楽大パレードがあったからだ。
音楽大パレードは観光祭のメインイベントのひとつであるとともに、日田市の小学生にとっては学校生活のメインイベントでもあった。たしか半年ほど前から練習を始めていたような気がする。5年生はリコーダー、6年生はいずれかの楽器隊に所属して、町のメインストリートを演奏しながら行進する。観光祭はまさに、小学校生活最後の大舞台だった。
6年生はいずれかの楽器隊に所属すると言ったが、どの楽器隊に所属するかも重要だった。基本的には希望制だが、人数に限りがあるのでオーディションを行うことになる。希望の楽器担当になってもならなくても、みんなで一生懸命練習した。僕の担当は小太鼓だった。毎年、6年生が叩いている小太鼓に憧れていたので、小太鼓を担当できたことがとても嬉しかった。ボウルにラップを貼ったり、漫画雑誌を使ったりして、ずっと練習していたのを覚えている。しかし6年になる時福岡に引っ越してしまったので、僕は本番を迎えられなかった。
いわゆる町の祭りに、参加する側で一生懸命になった経験は後にも先にもない。どんたくや盆踊りの類にも参加したことはない。いや、観光祭にも結局リコーダーでしか参加はしていない。巡り巡って今、偶然にもタイコスーパーキックスというバンドをやっているので、是非何かの祭りでライブをしてみたいものだ。
▲ブタジのガンバリヤ宮殿▲
祭りの出店って高いですよね。焼きそばにしてもお好み焼きにしても。それが、食べ飲みスペースを用意している出店ならどうでしょう。その席代として比較的高い料金も払える気がして来ますよね。そこに座ると、混雑した神社の参道へ進む人たちの様子が酒の肴になります。この隠れた優越感は何者にも変えがたいと思っております。
あと、特に祭りに行ったり参加したりするような柄では無いのですが、出店の飯を持って帰って家で食べるとあんまり美味しくない。やっぱりその場の雰囲気と合わせて食べるのが良いんです。
大体、みんな祭りに行って何をやってるんでしょう、盆踊りに参加するんですか。昨年初めて輪の中に入りましたが、絶対見てた方が楽しかったなと思いました。しかしそういう場ではみんな盆踊りに参加したがるので、一人になります。
となると、一人で縁石に腰掛けて食べるよりも屋根付きの食べ飲みスペースがちょうど良いんです。ぼったくってるようにも思えなくなります。待ち合わせ場所としても分かりやすい。ここでもし酔いつぶれてだらしない人、と思われても、なんせあなた方を肴にしてさっきまで飲んでいたのでしょうがないということになります